Unitary
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ユニタリ性とは、確率の合計が1になるということです。
量子力学が、現象を確率を扱うということは聞いたことがあると思います。
コイン投げを考えてみます。
表が出る確率は1/2、裏が出る確率も1/2です。合わせて1/2+1/2=1です。
次にいかさまコインを考えてみます。
例えば、表が出る確率が2/3、裏が出る確率が1/3であるとします。
いかさまサイコロでも、確率の合計は2/3+1/3=1です。
巧妙ないかさま師は、最初からいかさまコインは使いません。
勝負に熱くなってきた頃にいかさまを始めます。
例えば、コインに磁石を仕込み、テーブルに電磁石を仕込みます。
最初は電磁石をOFFにしておいて、その後ゆっくり通電して磁場を発生させて、確率を1/2からずらしていきます。
表が出る確率を、時間tの関数として P(t) とすれば
裏が出る確率は 1-P(t) です。
こんどはサイコロを考えてきます。
簡単のため、
1,2の目が出る確率=1/3、
3,4の目が出る確率=1/3、
5,6の目が出る確率=1/3
を考えてみましょう。これもいかさまが仕込まれていて時間的に変化するとします。
1,2の目が出る確率=F(t)、
3,4の目が出る確率=G(t)、
5,6の目が出る確率=1-(F(t)+G(t))
ですが、例えば
1,2の目が出る確率=1/2
3,4の目が出る確率=2/3
とすると、
5,6の目が出る確率=1-(F(t)+G(t))=1-7/6=-1/7
でマイナスになってしまうので、これは変です。
確率の合計が1であるだけでなく、全ての確率が正の数でなければいけません。
1,2の目が出る確率=F(t)、
3,4の目が出る確率=G(t)、
5,6の目が出る確率=1-(F(t)+G(t))
という書き方をすると、確率の合計が1になるのはいいですが、全ての確率が正の数でなければいけないという点がはっきりしません。第一、なんだか対称性が悪く、式が汚い感じがします。
そこで、確率をベクトルで表すという考えが出てきます。
以下の図を見てください。
コイン投げの場合、表=1/2、裏=1/2 を45°の長さ1の線で表します。
いかさまコインの場合は、45°以外の長さ1の線で表します。
以下の図のいかさまコインの場合、表の出る確率=a^2.裏の出る確率=b^2 と考えます。
確率の合計が1という式は
a^2+b^2=1
ですが、これは三平方の定理です。
サイコロの場合は3次元グラフですが
1,2の目が出る確率=a^2
3,4の目が出る確率=b^2、
5,6の目が出る確率=c^2
確率の合計が1という式は
a^2+b^2+c^2=1
ですが、これもまた、三平方の定理です。
それ以上は4次元になってしまうので図に書けないように感じますが、同じ考えで拡張できます。
したがって、グラフ上の赤い線で確率の状態を表し、時間的に確率が変化する場合は、赤い線がグラフの中で動きます。
ただし、赤い線の長さは常に1です。長さを常に1に保つことで、確率の合計が1になることを保証します。
こういう考えの方が対称性もいいですし、負の確率が出てくるなんて事態も避けやすいです。
さて、赤い線が長さを1に保ったままグラフ中を動くわけですが、これは回転行列で表現できます。
実は、量子力学では複素数を使うので、高校レベルの回転行列ではだめで、もう少し一般的な長さを変えない行列による変換を考えます。
複素数レベルで、長さ(ノルム)を変えない行列をユニタリ行列と言い、複素数レベルで長さ(ノルム)を変えない変換をユニタリ変換といいます。
ユニタリ変換を行う限り、赤い線の長さは1であり、確率の合計は1に保たれます。
したがって、ユニタリ性とは、確率の合計が1になる性質のことを言うわけです。
ある理論が正しいかどうかは普通は実験で検証しますが、実験するまでもなくユニタリ性が壊れているような理論は間違っているだろうとみなされてしまいます。
逆に、「ユニタリ性を保つためには、○○でなければいけない」というように考えて、理論を作ることもあります。
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